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シドニー・モーニング・ヘラルド
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粋な樹木
ジェームズ・ウッドフォード
1995 年 4 月 5 日
シドニー・モーニング・ヘラルド
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ジョン・フェアファックス・グループ株式会社著作権所有
マウント・アナン植物園は周りを起伏のゆるやかな野原と新興住宅開発地に囲まれている。 そこで息を吹き返した恐竜時代の遺物を見られるとは、とても想像できないところである。
警備の厳重な研究室に鍵をかけられた一つのキャビネットがおいてある。 その中に保管されているウォレマイ・パインという生きた化石が、20 世紀の世界に直面しようとしている。
科学者がある小さい島に恐竜を放つ映画の 「ジュラシック・パーク」 と、ウォレマイ・パインとの間には明らかに類似点がある。 しかし、その映画に登場した無謀な科学者とキャシー・オフォード氏を比較するのは、オフォード氏にとって迷惑な話だ。氏の研究によって、昨年末まで絶滅したと考えられていた松の木が、究極の鉢植え植物になる可能性があるのだから。
彼女の研究の最大目標は松の商業化ではなく、この木の将来に向けた生存を確保することである。
キャンベルタウン近郊にあるこの植物園の園芸研究員オフォード氏は、次のように語る。 「ジュラシック・パークの科学者には何か悪い意図が感じられる。」
「我々がここで行っている研究にはそんなものはない。」
しかし、オフォード氏が好む好まざるに関わらず、ウォレマイ・パインとジュラシック・パークとの比較は今後も続くだろう。 ウォレマイ・パインは恐竜時代の遺物であり、
世界中の人々の想像力をかきたてたのだ。
面積 50 万ヘクタールを持つウォレマイ国立公園の原生自然の、人がほとんど近寄らない山峡でウォレマイ・パインが昨年末に発見されるまで、
この木は1億年以上前に絶滅したと考えられ、博物館でほこりをかぶった化石でしか知られていなかった。
王立植物園のディレクターであるカリック・チェンバーズ教授は、発見について発表した際にこう付け加えた。 「この発見は、地球上で未だ生存する小さな恐竜を発見するのに匹敵する。」 と。
オフォード氏は現在、世界に 20 本しかない野生のウォレマイ・パインの成木を何千本、いや何百万本に増やす責任を負っている。
ウォレマイ・パインを実際に目にした植物学者の一人であるオフォード氏は言う。 「この研究が成功すれば、ウォレマイ・パインは世界で最も名の知れた、
人気の高い鉢植え用・庭園用の植物となる。より重要なのは、この木が絶滅しないということだ。」
「我々が行っている研究の第一目的は、ウォレマイ・パインの保護である。」 と、オフォード氏は語る。
「ウォレマイ・パインを庭園で育てることは、野生の木の損失に対する保護手段となる。」
将来ウォレマイ・パインが郊外の家の裏庭にそびえ立つ、あるいは、ラウンジを飾るようになる、こうしたことを示唆する前向きな兆候が早くも現れている。
野生の松から採取した種が根を張り、クローニング技術が目標の半ばまで達成し、切り枝も芽を出した。 まもなく、
植物園の研究室で育つウォレマイ・パインの若木が野生のものより多くなるかもしれない。
ウォレマイ・パインの研究に従事する科学者たちは皆、ウォレマイ・パインの発見は、シドニーのすぐ近くに存在したこの全く新しい植物属が研究に及ぼす影響と共に、
科学者としてのキャリアの中で最も重要な任務を与えたと言う。
王立植物園ではウォレマイ・パインの調査に関して、二つの主要研究が平行して行われている。 オフォード氏が率いる研究班の一つは木の繁殖を担当し、
もう一つの研究班は王立植物園の上級植物学者でオーストラリアの松の専門家でもあるケン・ヒル氏が先頭に立っている。ヒル氏の研究により、
ウォレマイ・パインの構造の詳細が明らかになるだろう。
全ての科学者が守らなければならない基本的ルールは厳格である。 ウォレマイ・パインを傷つけてはならない、また、非常に希少な植物であるので、
繁殖のための種やその他の原料の採取は必要最低限にすること、などである。野生のウォレマイ・パインの群生に入るものは全て、サンプルを採取する者の靴底も含め、
殺菌消毒されなければならない。
オフォード氏はウォレマイ・パインの繁殖計画に少なくとも5年間携わっているが、野生のウォレマイ・パインを見ることを許されないほど、規則は厳しい。
ヒル氏は過去に一度だけウォレマイ・パインを見たことがあるが、今年は見ることができないだろう。
ウォレマイ・パインの生息地は、外界からの影響を非常に受けやすいところである。 生息地への訪問を規制せずにいれば苗木の破壊につながる、あるいは、
真菌感染症により絶滅する結果になりかねないとして、関係当局は恐れている。
「私は、ウォレマイ・パインがそこにあると分かっているだけで幸せだ。」 と、オフォード氏は語る。
科学者たちが使用する繁殖原料のほとんどは、近年、国立公園野生生物局のヘリコプターが人里離れた山峡を訪れた際に集められた。
参加チームはできるだけ少人数にしぼられた。 直接仕事に携わる、担当の専門分野の上級職員だけであった。
そこで採取された種では、おそらく数十年間は商業的に利益が上がらないであろう。 野生の群生を危険にさらすことなく、大量の種を山峡から採取することができないからだ。 また、
研究室で育った木も今後20年は種をつくらないだろう。
種は地上から 40m のところにあるため、手に取ることはほとんど不可能である。 空中にとどまったヘリコプターからウインチで宙ずりにされた採取者が種を取るという一つの方法がある。
しかし、科学者たちにとってはヒヤヒヤものだ。 万が一、ヘリコプターが墜落して木が一本でもダメージを受けたら、あるいは群生全部が焼けてしまったら、そのときの世界の人々の反応を容易に想像できてしまうのだ。
アメリカ製の特製熱気球の使用も、採取のもう一つの方法である。 「この方法なら科学者は降雨林の上空を飛ぶことができるだろうが、おそらく熱気球は購入しないだろう。
熱気球にもだまっておけないほどの火災の危険性がある。」 と、チェンバーズ教授は語る。
大量繁殖の真の可能性は、組織培養として知られるクローン化にかかっている。 組織培養には、ほんの数個の細胞といった微量の原料があるだけで良い。
木のわずかな破片が特製のゼリー状物質とともに試験管に入れられる。 その破片に根を張らせたいなら、特製の根のホルモンを加える。 葉や枝をつくりたいなら、
他のホルモンを加えるという具合だ。
しかし科学者らが求めているホルモンは、ただの木の破片を爆発的に繁殖させることを可能にする最も開発の困難なホルモンである。 もし、この技術をマスターできれば、
年間何百万もの木が生産できるだろう。
オフォード博士の研究チームは、成長を促すために園芸学者が使用する 6 つのホルモンの完全な組み合わせを見つけようと努力している。
たった 4 ヶ月で、その研究チームには目覚しい進展があった。 オーストラリアの他の自生植物と比較すると、
ウォレマイ・パインは研究チームが試験した全ての繁殖技術に対してよく反応を示しているようだった。
オフォード博士の研究は悪い意図を含んでいないが、風変わりなものである。 前例のないほどの機密性を招き、その機密は厳重に保護されている。 そうした処置は、
木に対してというよりも金の延べ棒に対する保護にふさわしいものである。
マウント・アナンにどのくらいの量のウォレマイ・パインの繁殖原料が運び込まれているのか、その正確な量については植物園の職員は明らかにしない。
全てのウォレマイ・パインが注意深く生育されている温室は、固く立ち入りが禁じられ、厳重に警護されている。
科学者は展示会に木を少しずつ持ち出すよう準備している。 ほんの少人数しか木の実物を目にしていないが、その誰もが先史時代のこの木の美しさに圧倒され、
この木が園芸業界に流通するようになれば、世間で大評判になるだろうと予想している。
「この木はいつの日か、素晴らしい鉢植え用の木、あるいは庭木となるだろう。」 と、チェンバーズ教授は語る。
植物学者は、ウォレマイ・パインの同類種が鉢植えでも数年間はよく生育し、また、鉢植えにすれば大きく育ちすぎることがないことから、
ウォレマイ・パインも家庭に適した植物となるだろうと予想している。
王立植物園と国立公園野生生物局には既に、世界中の園芸店、科学者、一般の人々から一冊のノートを満たす程の問い合わせが寄せられている。
科学者たちにとって現在の最大の課題は、人々に忍耐強く待ってもらうことである。 たとえ繁殖技術が完全になったとしても、
商業的な販売を行うのに十分な量の木が育つまでに最低 5 年はかかるのである。
その各段階は忍耐が要求されるほどゆっくりとしたペースで進む。 オフォード博士がこの研究を始める前、シドニー大学の図書館の奥につめて、
松の木について書かれた文献を全部読み終えるまでに一週間を費やした。 植物園の科学者が繁殖用の原料採取をしに野生の山峡を訪れる前には、
オフォード博士は丸一日かけて担当者と打ち合わせをした。 繁殖担当のチームがその木について知っておかなければならないこと、つまり、その木の正確な生育場所、
求められる条件、発育の構造などの全情報を伝えるためだった。
組織培養で生育する手始めにわずか 20 本ばかりの切り枝を手にしたオフォード博士の助手、ジョアンヌ・テイラー氏はそれを 500 の破片にして試験管に入れた。
試験管の中の切り枝は、まるでガラスケースに閉じ込められたミニチュアのクリスマス・ツリーのように見える。 繁殖用のウォレマイ・パインの生育環境は、
氷河期が来てそれが過ぎ去る何百万年もの間、降雨林が保護してくれていた生育環境と全く異なっている。
マウント・アナンのウォレマイ・パインは無菌状態の研究室の中で育ち、合成ホルモンによって成長の各段階がコントロールされ、成長が促進される。
野生のウォレマイ・パインは水の澄んだ小川の上に高くそびえ、岩壁が山火事の危険から守ってくれている。
マウント・アナンでの重要な研究は、休みも返上させてしまうほどである。 また、追加人員の採用や研究資金の獲得をめざし、植物園は企業のスポンサーたちとの交渉を続けている。
これは現在、保護関係当局が最も慎重に運営管理している事業の 1 つだと幅広く認識されている。 収集家や好奇心を抱いた人が木の群生がある山峡へ立ち入り、
生息地にダメージを与えるのではないか、という懸念がある。 それゆえ、正確な生息場所は未だ内密にされている。
木の繁殖によって、野生の群生に対する重圧が取り除かれることを願う。
王立植物園は園芸店から不安をかきたてる問い合わせをいくつか受けたことがある。 ある園芸店経営者は最近、植物園に対して木の生育場所を教えるようにと要求してきた。
「これで金儲けがしたい。」 というのがその理由である。
オフォード博士が率いる研究チームは、研究を始めてから 6 年になるが、ウォレマイ・パインが発見されるまで、博士の研究は一般にほとんど知られていなかった。
しかし、このチームは今までに絶滅危惧種や繁殖の難しい植物に対して数多くの繁殖に成功してきた。 一例をとると、ワラタ、オーストラリア・デイジー、
寄生植物が宿主とする植物で非常に希少なため俗名が付けられなかった植物などがある。
ウォレマイ・パインの他に利益になり得る植物はフランネル・フラワーだろうと、オフォード博士は推測している。 農業研究開発コーポレーションとロイヤル・ボタニック・ガーデンズ・トラストは、
この花の開発のため 10 万ドルをオフォード博士の研究チームに渡した。 現在、フランネル・フラワーは野生に生息しているだけである。 この花の繁殖ができないため、
花屋は国立公園野生生物局が許可した収集家からしか花を求めることができない。
フランネル・フラワーはオーストラリア国内での人気のみならず、海外でも大ヒットになるだろうと、オフォード博士は言う。
「日本人はフランネル・フラワーが好きだ。 花の色、形、柔らかいベルベットのような葉が好きなのだ。」 と博士は語る。
オーストラリアの植物はヨーロッパの入植以来破壊され続け、その多くは現在、絶滅の危機にある。 飼育による自家繁殖が多くの野生動物にとっての唯一の望みであるのと同じように、
クローン化や特別な園芸技術による科学的な大量生産が絶滅の危機にさらされた多くの植物にとって、唯一の望みとなるのかもしれない。
「シドニー植物園のような大規模な植物園の根本的な責任は、絶滅の危機にさらされている植物種を救うため、できる限りのことをするということだと私は思う。」 と、
チェンバーズ教授は語る。
オーストラリアには 2 万 5 千の自生植物がある。 その美しさにも関わらず、そのうち商業的に利用されているのは非常に少数であると、チェンバーズ教授は言う。
ウォレマイ・パインの発見は今世紀の世界で最も重要な植物学上の発見の一つであり、
ウォレマイ・パインは世界の人々がオーストラリアの植物相に多大な関心を抱くきっかけを与える可能性のある植物だ、と教授は話す。
「とてもエキサイティングだ。」 と、教授は言う。
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恐竜の木を復活させるクローン・パイン
- 植物から若枝を切り取る
- 若枝から葉を切り取る
- 洗ってきれいにする
- 成長ホルモンを加える
- クローンが繁殖する
- できた植物が固くなり、順化する
- 容器に移すか、移植する
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